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• 土地家屋調査士の日常。一人、バーのカウンターにて＜その２＞
  

マスター「なるほどね…。そういや親父さんと会ってます？」

イワモト「親父？俺の？15年前くらいに一回会ったよ。今は何してるか知らんけど」

マスター「お兄さんは？」

イワモト「兄貴なぁ…。長らく会ってない。何してんねやろ。でも、姉はたまに『ブログ読んだよ〜』ってメール来る」

マスター「イワモトさんて意外と孤独っすね？お母さんは？」

イワモト「やばい感じやなぁ。言ったっけ？今ね、一緒に住んでるんよ。でさ、この前NHKの上戸彩と飯島直子が出てるドラマ見てたんよな、でさ、上戸彩の友達が旦那から暴力振るわれてるシーンがあるわけ。けっこう壮絶なんよ。旦那が髪の毛つかんでフェンスに突き飛ばすんよな。うぉりゃぁ〜って」

マスター「けっこうエグいっすね…今のNHKってそんなんですか？」

イワモト「そう。NHKやで。でさ、母親がさ、じ〜っと真剣に見てるんよ。俺さ、嫌なこと思い出してるかな…って心配なってた。そしたらポツリと『うわ〜すごいなぁ。DVDってこんなんなんやぁ…』って言った」

マスター「惜しいじゃないっすか。で、『DVや』って教えたげたんですか？」

イワモト「『ブルーレイや』って言っといた。あ、そや、あれもあったなぁ、大鵬死んだやん、新聞見ながらな『あんた知ってるか？巨人大鵬目玉焼き言うくらいすごかったんやで』ってな。卵焼きやっちゅうねん。」

マスター「ま、それくらいはあるでしょ」

イワモト「そおかぁ？あ、これは？日曜日の朝『うわ〜、あかん、もう無理や〜、ついていけん〜なんでこんなことすんの〜』って一人で大声で喚いてた」

マスター「なんですの？」

イワモト「毎週日曜日の新聞にな、年寄り向けの「頭の体操」みたいなコーナーがあってやな、それをうちの母親が毎週熱心にやってたんよな。で、そこに、新聞に天声人語とかコラムあるやん、あれを年寄り向けに大きな字で書いて、読ませるコーナーがあるんよ」

マスター「ほぉ。それもお母さん読んでたんですね？」

イワモト「知らんかったけどな。で、パニクってるからさ、『どないしたん』って聞いたらさ、今週からコラムをオン読みしろっていうことになった、と。えらいこっちゃ、とな。どういうことかというとやな、例えば『朝、庭に出ると』って書いてたら、『チョウ、テイにシュツると』って読めっちゅう話。そんな頭の体操あるか？」

マスター「いや、知らないです」

イワモト「で、今週から変わったっちゅうからさ、先週までどんなんやったん？て聞いたらさ、『全部訓読みして読むんやったんよ。それやったら簡単やったのに』っていうわけな。で、『あ〜もう無理や』とな。俺、ほんまかいな？と、新聞見せてもらった」

マスター『はい、そしたら？」

イワモト「『コラムを音読しましょう』って書いてあった。オンドクやがな。声出して読みましょう！やがな、オンヨミなわけあらへん、ついでに、先週まで訓読みもありえへん」

マスター「それはちょっとヤバいっすね。イワモトさんて、いっつも陽気な感じですけど、なかなか大変じゃないっすか。」

イワモト「そう。いろいろ大変よ…。でもな、『俺はいつでもハッピーだ』って自分で自分に言い聞かせてる」

マスター「それ、『ミステリートレイン』でしょ？ジム・ジャームッシュの」

イワモト「うわっ、パクったんばれた？なんで知ってんの？」

マスター「映画好きですからね。イワモトさん、そろそろ結婚しましょうよ」

イワモト「男はいらんわ」

マスター「いや、そうじゃなくて…。もうそろそろ結婚したほうがいいんちゃいます？」

イワモト「あのさ、みんな俺があえて結婚しないと思ってるみたいやけどさ、俺は結婚したくてもできないんよ。」

マスター「え、結婚したくてもできないんやと思ってますよ？」

イワモト「あ、そうなん？一杯で帰るわ」

マスター「いやいやいや。でも、ホントちゃんとしたほうがいいっすよ」

イワモト「そやなぁ…子育てブログとかやりたいなぁ」

マスター「コメントしますよ」

イワモト「『嫁さん愛してる』とか、そんなん書きたいなぁ」

マスター「それ、モチベーションにして頑張ったらどうです？」

イワモト「俺、結婚式が嫌なんよ。ゴンドラ乗ったりするやん、あんなんイヤなんよ」

マスター「今はね、イワモトさん、そんなん乗る人いないんですよ」

イワモト「あ、そうなん？？じゃあ、ちょっと考えてみよっかな…」